そんなばかな……。 暑い。 とても暑い。 「ここは、どこだ……?」 とりあえず、隣にいるあゆに訊いてみる。 「え? エジプトだよ?」 あゆがこともなげに言う。 「な、何故俺達はエジプトにいるんだ!」 「なぜって、祐一君がさそったんじゃないか。覚えてないの?」 あゆは何を今更、といった風に言う。 「……そうか、そういえば、そうだったかな……」 ………………。 …………。 ……。 「いや、そんなこと言った覚えはない! 何故俺らはこんなところにいるんだ!」 俺はあゆの頭をつかむ。 「うぐっ、いたい、いたいよぉ。やめてよ祐一君」 あゆは俺の手から逃れようとするが、力が弱くじたばた暴れるだけだった。 「言えっ、何故こんなところにいるんだ?」 「だ、だから、探し物をしてるんだよっ!」 「はあ? こんなところに何があるんだよ」 俺は、馬鹿馬鹿しいと思いながらも、あゆの言葉を聞いてみる。 「ボクの、大切なもの。それが何だか忘れちゃったけど……」 「そっか、頑張れ」 俺はあゆの肩を叩く。 「うんっ、ボク、がんばるよ」 あゆは俺に笑顔を向ける。 「じゃ、俺帰るから」 「うぐぅ、待ってよ」 あゆが俺にしがみつく。 「こんな暑いところにいられるかっ」 「探しもの……」 あゆが、涙をためた目で俺をじっと見つめる。 「あーわかった! 探してやるから、泣くんじゃない!」 俺は結局あゆに弱かった。 「うん、ありがとう、祐一君」 「で、ここはどこだ。エジプトなのは分かったとして、カイロでいいのか?」 俺は辺りを見回す。 何だか建物が多いので、ここが首都だろう。 「ううん。ルクソール」 「どこだよそれ」 俺は辺りを見回す。 見知らぬ土地、見知らぬ河、見知らぬ建物。 「おい、ここもしかして……」 「ナイル川岸の谷だよ」 あゆが、こともなげに言う。 「おい、お前それってまさか……」 俺は少し慌てた。 歴史にも地理にも疎い俺でも分かる。 ここは王家の谷。 エジプトの、いや、世界の遺産の宝庫。 「やばいんじゃないか? よくこんなところは入れたな」 「うん、有刺鉄線切って入ったから。何か看板が立ってたけど読めなかったし」 あゆが、無邪気に言う。 やばい。 俺達のやってることは、墓場泥棒じゃないか! 「おい、やっぱり……」 「あ、あそこにお墓があるよ」 俺の言葉を聞かず、あゆがある建物に走っていく。 「お、おいっ」 あゆは勝手に中に入っていく。 俺は慌てて後に続いて中に入る。 「あゆっ、出て来いっ!」 俺は中に向かって叫ぶ。 「祐一君、ごめん、探し物、見つかったんだ」 「って、お前何ツタンカーメン像もって、雰囲気作ってんだ、置いて出て来い!」 「ボクのこと、忘れてください」 そう言って微笑みを作ると、あゆは消えた。 残された俺は、当然、当局に捕まった。 エジプトで長期間拘留されることになった。 その懲役は、七年。 |