はじまりのさようなら。その三


「――――これで、終わったのですね」
「……ああ。これで終わりだ。もう、何も残ってない」
 全てが終わった後、セイバーは言う。
「そうですか。では私たちの契約もここまでですね。貴方の剣となり、敵を討ち、御身を守った。……この約束を、果たせて良かった」
 その声はとても清々しく、やり遂げた人間だけが持つ、誇りがあった。
「……そうだな。セイバーはよくやってくれた」
 だから、俺はそれ以外言うことはなかった。
 俺達は多分、同じ事を考えている。
 だが、それがどちらの口から漏れ出ることはないだろう。
 出会ったときから、この時が来ることは分かっていた。
 だから、俺達は、やり遂げたことを讃え合い、そして、笑って手を振ろう。
 俺は彼女に駆け寄ることもしない。
 朝日が昇る。
 止んでいた風が立ち始める。
 永遠とも思える黄金。
「最後に、一つだけ伝えないと」
 強く、意思の籠もった声で彼女は言った。
「……ああ、どんな?」
 精一杯の強がりで、いつも通りに聞き返す。
 セイバーの体が揺れる。
 振り向いた姿。
 これが彼女のこの時代での最後の言葉。
 分かっているからこそ、俺は総てを堪えて彼女の言葉を待つ。
 彼女はまっすぐな瞳で、後悔のない声で、こう言った。
「シロウ――――私は凛を、愛している」
 そんな言葉を、口にした。
「……へ?」
 風が吹いた。
 朝日で眩んでいた目をわずかに閉じて、開く。
「………………」
 そこには誰もいなかった。
 初めから、何もなかったかのように、風が舞う。
 驚きはなかったと思う。
 そんな気がしていたのだ。
 俺が相手のときよりも凛が相手のときの方が余程いい声を出していたし。
 視界に広がるのは、ただ一面の荒野だけ。
 駆け抜けた風と共に、騎士の姿はかき消えていた。
 現れた時と同じ。
 ただ潔く、面影さえ残さない。
「ああ――――本当に、おまえらしい」
 呟く声に悔いはない。
 失ったもの、残ったものを胸に抱いて、ただ、昇る光に目を細める。
 忘れえぬよう、どうか長く色褪せぬよう、強く願って地平線を見つめ続けた。
 ――――遠い、朝焼けの大地。
 彼女が愛した、赤い悪魔に似た。


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