「――――これで、終わったのですね」 「……ああ。これで終わりだ。もう、何も残ってない」 全てが終わった後、セイバーは言う。 「そうですか。では私たちの契約もここまでですね。貴方の剣となり、敵を討ち、御身を守った。……この約束を、果たせて良かった」 その声はとても清々しく、やり遂げた人間だけが持つ、誇りがあった。 「……そうだな。セイバーはよくやってくれた」 だから、俺はそれ以外言うことはなかった。 俺達は多分、同じ事を考えている。 だが、それがどちらの口から漏れ出ることはないだろう。 出会ったときから、この時が来ることは分かっていた。 だから、俺達は、やり遂げたことを讃え合い、そして、笑って手を振ろう。 俺は彼女に駆け寄ることもしない。 朝日が昇る。 止んでいた風が立ち始める。 永遠とも思える黄金。 「最後に、一つだけ伝えないと」 強く、意思の籠もった声で彼女は言った。 「……ああ、どんな?」 精一杯の強がりで、いつも通りに聞き返す。 セイバーの体が揺れる。 振り向いた姿。 これが彼女のこの時代での最後の言葉。 分かっているからこそ、俺は総てを堪えて彼女の言葉を待つ。 彼女はまっすぐな瞳で、後悔のない声で、こう言った。 「シロウ――――昨日、戸棚にあったタイガの持ってきた饅頭を食べたのは、私だ」 そんな言葉を、口にした。 「……へ?」 風が吹いた。 朝日で眩んでいた目をわずかに閉じて、開く。 「………………」 そこには誰もいなかった。 初めから、何もなかったかのように、風が舞う。 驚きはなかったと思う。 そんな気がしていたのだ。 藤ねえに理不尽に怒られた時も、犯人はセイバーだと確信していた。 視界に広がるのは、ただ一面の荒野だけ。 駆け抜けた風と共に、騎士の姿はかき消えていた。 現れた時と同じ。 ただ潔く、饅頭さえ残さない。 「ああ――――本当に、おまえらしい」 呟く声に悔いはない。 失ったもの、残ったものを胸に抱いて、ただ、昇る光に目を細める。 忘れえぬよう、どうか長く色褪せぬよう、強く願って地平線を見つめ続けた。 ――――遠い、朝焼けの大地。 彼女が食べきった、黄金の饅頭に似た。 |